とある化学な研究者の日常

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既に実現している最新の癌治療!こんなにも進んでいることを知ってほしい!【後編】

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【前編】の記事では、これまでの癌治療とその問題点について解説してきました。その中でも化学療法(抗癌剤)が唯一、転移癌を含めた全身性の癌を叩ける方法だということを書きました。【後編】ではそんな化学療法を中心に最新の癌治療の解説をしていきたいと思います。

 

ドラッグデリバリーシステム

ドラッグデリバリーシステム(DDS)という言葉は聞いたことがあるでしょうか。 言葉から想像出来る通り、薬を必要なところへ届ける技術のことです。つまり、抗癌剤を注射で撃ちこめば、癌のところだけに薬剤が集まるというようなシステムのことを言います。

これは夢の様な話に聞こえますがこの技術は既に実現しています。

仕組みはいたってシンプルです。癌は増殖するために新しく血管をどんどん自分の周りに張り巡らします。しかし突貫工事で血管を作るので、その血管には通常の血管には無いような小さな穴が沢山開いています。その穴を抜けるような大きさのカプセルに薬を入れてやれば癌だけに薬が届くことになります。(参考:EPR効果)

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 上の画像にもあるように、癌細胞周辺の血管から漏れ出す程度の大きさの薬を入れてやれば良いのです。実際のところその大きさは10億分の10〜30メートル程度(10nm-30nm)とわかっています。どのくらい小さいかと言うと、薬を入れるカプセルが人間程度の大きさだとすると、地球の直径がちょうど1mになるくらいの小ささです。

厄介なのがこの大きさよりも小さければ腎臓によって取り除かれてしまい、それよりも大きければ免疫細胞が分解してしまう点です。ちょうど良いサイズのカプセルを作らなければなりません。

この技術は既に臨床段階にあります。この研究でトップを走っているのが、東京大学の片岡一則先生です。片岡先生は水中で自動的にこの程度の大きさになるナノミセルと呼ばれるカプセルを応用して、癌治療に取り組んでいます。

参考:文部科学省 次世代がん研究シーズ戦略的育成プログラム

そして、この原理を利用した抗癌剤が既にDOXILとして市販されています。

 

デメリットとしては繰り返し投与することで、身体がこのカプセルを異物と認識して破壊する現象が起こることです。これを避けるための研究もかなり進んできています。また普通の抗癌剤に比べて価格が高くなってしまうのは否めません。今後ドラッグデリバリーシステムによる癌治療はメジャーなものになっていくでしょうから、そうすれば価格も今よりずっと安くなるでしょう。

更に進んでいくドラッグデリバリーシステム!(少し専門的)

少し話がややこしくなってしまいましたが、ちょうど良い大きさの薬を入れるカプセルを作れば癌のところまで薬を運ぶシステムになるということでした!

最近はさらに研究が進んでいます。具体的には癌のところにカプセルが届いた時に、薬がちゃんと出るようにカプセルを工夫することが行われています。例えば癌細胞の周辺は正常な細胞の周りよりもpHが低いので、それに反応して崩壊するカプセル。カプセルが癌部位に届いた時に、外から温めてやることで効果を増すカプセルなどです。

またカプセルに薬の代わりに、金属を入れてやることで癌をMRIで検出する研究も盛んに行われています。

 

抗体医薬品

抗体医薬という言葉を聞いたことがあるでしょうか。抗体というのは人の身体の中で免疫の中でも大きな役割を担っているもので、下に示すようなY字形をしています。

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Y字の上の2つにわかれた部分とくっつくことが出来るのは、1つの抗体に付き1種類だけです。これを応用して、癌細胞だけにくっつく様な抗体を使おうというのが抗体医薬品の基本的な考え方です。抗体が付いた癌細胞は免疫細胞が処理できるようになるので、これによって癌を退治しようというのです。(参考:ADCC/CDC活性)

考え方としては1つ前に出てきたドラッグデリバリーシステムと似ていますが、ドラッグデリバリーシステムでは穴から薬が出て行くという方法だったのに対して、抗体医薬ではどのような状況でも癌細胞だけを認識することができます

余談ですが薬として人に使える抗体はヒトモノクローナル抗体という特殊なもので、この作り方を発明したGeorges Jean Franz KöhlerとCésar Milsteinはいずれも1984年にノーベル医学・生理学賞を受賞しています。

 

抗体医薬品に関して驚くべきデータがあります。下の表なのですが、これは2013年度に世界で売れた医薬品の売上高ランキングです。

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なんとトップ10のうち半分が抗体医薬品であることがわかります。抗体医薬品のもたらす効能と期待はそれだけ高いということです。

 

抗体医薬品の最も大きいデメリットは、やはり価格です。前述したようにヒトモノクローナル抗体と呼ばれる抗体を使う必要がありますが、これを作って人に打ち込めるくらいに純粋なものにするのには手間がかかるのが現状です。そこで最近では4で紹介するアプタマーと呼ばれる薬も開発されています。

 

ADC薬 (Antibody Drug Conjugate)

ADC薬という名前は医学や薬学、生体化学を専門にしていない方は聞いたことが無いと思います。実はこれは抗体医薬品の一種ですが、抗体を更にパワーアップさせた薬なのです。具体的には抗体に抗癌剤がくっついたような形をしています。

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先ほど見た抗体に赤色で示した抗癌剤が付いた構造をしていて、抗体が武装化されています。普通の抗体医薬品では、抗体が癌細胞にくっついた後に免疫細胞が癌細胞をやっつける流れでしたが、このADC薬では抗体部分が癌細胞にくっついた後に、懐に携えている抗癌剤を癌細胞に送り込んで癌細胞を破壊してしまいます。さながら敵陣に突っ込む兵士のようですね。ご想像の通りADC薬は一般的に普通の抗体医薬よりも強い抗癌活性を示します。

ADC薬は抗体を用いているので、癌細胞のところへ特異的にくっつくことができます。これによって抗癌剤が健康な細胞にまで及ぶことは少なくなるので、副作用は大幅に抑えられます。ですので、普通は副作用が強すぎて到底薬として使えないような、超強力な抗癌剤も使用することができます。むしろADC薬においては抗癌剤は強力であるほど良いとされています。

このように抗体を抗癌剤で武装することによって抗体医薬品では効果の薄い癌に対しても有効なデータが得られることがわかっています。

 

現状ADC薬として販売されているのは、マイロターグ(急性骨髄性白血病)、カドサイラ(乳がん)、アドセトリス(ホジキンリンパ種・全身性未分化リンパ腫)の3種類で、特に後ろの2つについては2013年と2014年に承認された新しい薬です。ですが近年その効果が注目を集めていて、続々と研究が進んでいます。

デメリットとしては抗体医薬品と同様に抗体を用いているので価格が高くなることが挙げられます。ですが、それを補って余りある効果が得られるものと期待されています。

 

参考:http://www.nihs.go.jp/library/eikenhoukoku/2014/036-046.pdf

 →国立医薬品食品衛生研究所の報告書なので、比較的わかりやすいですが少し専門的です。

参考:Angew. Chem. Int. Ed. 2014, 53, 3796-3827

→専門家向けの内容です。最近のADC薬についての情報が非常にわかりやすくまとめられているレビューです。

Angew. Chem. Int. Ed.
2014
,
53
, 3796 – 382

 

アプタマー医薬品(核酸医薬品)

ここまで紹介してきた抗体医薬品やADC薬は抗体を用いているため、効果は高いのですが、高価だったり開発に大掛かりな設備が必要だったり、また 開発に時間がかかったりするのが難点です。その難点を払拭するべく、近年はこのアプタマー医薬品に注目が集まっています。

アプタマーというのはDNAを構成する物質と同じものからできていて、様々な形を取ります。1つのアプタマーが取る形は決まっていて、この決まった形と合う物質だけが、アプタマーと結合できます。(実際には様々な物質からアプタマーを作ることができます。DNAを構成する成分で作ったアプタマーのことを核酸アプタマーといいます。)

もうおわかりですね?癌の細胞につくアプタマーを作れば、これを抗体の代わりに使うことができます。

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上の図では標的は癌細胞ではなくタンパク質となっていますが、実際のアプタマーでは癌細胞本体ではなく、その細胞表面にあるタンパク質を狙うためです。

このアプタマーは、抗体よりも標的にくっつく力が強く、それでいて抗体よりも安価に作れる利点があるため、抗体医薬に代わるものとして広く研究されています。

既にマクジェンという製品名で加齢性黄斑変性症の治療に用いられています。

 

現状では血液中に入れると素早く分解されてしまうというデメリットがあるのですが、上で紹介したドラッグデリバリーシステムのカプセルの中にこのアプタマーを入れることで、癌細胞まで安全に届けようという研究が進められています。

 

いかがでしたでしょうか。癌は死亡者の最も多い病気ということもあって、その研究の速度は目を見張るものがあります。こうやって頑張って書いた記事も数年後には過去のものとなっているでしょう。笑

この記事が情報を必要としている人の役に立ったなら嬉しいかぎりです。

尚、癌の免疫療法については別の記事としてまとめる予定です。

 

参考:新たなるバイオ医薬品開発 | Nature 日本語版 Focus | Nature Publishing Group

ネイチャーによって現状のバイオ医薬品について解説された記事です。端的にまとめられていますが少し専門的です。